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川端・三島の往復書簡 [本・漫画・TVなど]

「川端康成・三島由紀夫 往復書簡」という面白い本を読みました。

(20年も前の本!)年の離れた二人の師弟関係を窺い知ることができます。

東京大空襲前後の昭和20年3月、三島(20歳)の処女小説「花ざかりの森」を

文壇の大御所・川端康成(45歳)が拝受したお礼から始まって、25年の後に

三島が自衛隊市谷駐屯地で自決する数か月前の書簡で終わっています。

その後、三島の雑な走り書きが1通あったけれど、ご家族の意向により

未公開とのことです。う~ん、何が書かれていたのか知りたいですね。。


川端康成・三島由紀夫往復書簡 [ 川端康成 ]

川端は、三島の才能を当初から評価していて、視野を広げる為に外遊を勧めたり、

自著の紹介文を書かせたり、各所に推薦して文壇への橋渡しをしています。

川端は、打てば響くような頭の良い人が好きだったのだそうです。

一方の三島は、初期には若者らしい文学論をぶつけたり、生活上の愚痴をこぼして

みたり、びっくりするくらい率直、詳細に心の内を書き綴っています。

中盤からは自作の戯曲の案内や、他の作家の人物評や著作の批評もしていますが、

川端に対する賞賛と信頼、感謝の姿勢は一貫し、入院する川端へ長々と必要な物品リスト

を送ったりしています。互いの家族への贈り物も頻繁にされていたようです。[プレゼント]

興味深かったのは、「禁色」について三島が「もう男色ものは書きたいだけ書いた」ので

あとは健康的なものだけ書く、と言っているくだり。私はこの作品でしばらくもう三島は

読まなくてもいいや、とお腹いっぱいになったので、本人もそうだったかと笑えました。

日本文学界の世界の狭さを憂えていた二人が、海外での翻訳の伝手を辿る過程や評判、

三島が川端の推薦文を書き、大方の予想に反して川端がノーベル賞を受賞してしまう所、

三島が自決する1年前に、「小生が怖れるのは死ではなくて、死後の家族の名誉です。

(中略)子供たちが笑はれるのは耐へられません。それを護って下さるのは川端さん

だけだと、今からひたすら便りにさせていてだいてをります。(原文のまま)」と

書き送っている所等。。しかし、三島の葬儀委員長を務めた川端も、その翌年には

ガス自殺してしまうのですが、どういう思いを抱いておられたのでしょうか。。

数年前に三島の「音楽」を読みつつ、並行して読んだアーサー・C・クラークの

「幼年期の終わり」を三島が絶賛していたと知り、へえ、と思ったりしましたが、

川端のみならず両親、妻子にも深い愛情を示していた三島の側面を垣間見て、

再び未読の小説や、力を入れていた戯曲・批評を読んでみたくなりました。

ところで、この時期図書館で「往復書簡特集」というナイスな企画をしており、

「サンサーンスとフォーレ(濃い師弟関係にびっくり)」「ゲーテとシラー」

「ヒットラーとムッソリーニ(互いに軽蔑し、信用していない所があったとか)」

「漱石と子規」等興味深いものが並んでいました。[本]分厚いのが多いなあ。。

関係性が時間の経過と共に変わっていくのを辿ったり、手紙の前後に何があったかを

想像するのも面白いなあと思いながら、しばし立ち読みしてしまいました[るんるん]


nice!(29)  コメント(8) 

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コメント 8

ぼんぼちぼちぼち

これは興味ありやす。
川端と三島の師弟関係は、他の文士らとは比較にならないほど親密なものだったそうでやすね。
神保町に行ったら探してみやす(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2017-03-09 21:48) 

うっかりくま

ぼんぼちさん、オフ会報告楽しませて
頂きました!良い雰囲気なのがわかります。
川端康成の書簡はあっさりして短いですが、
三島由紀夫のは読みごたえがあります。
お芝居の話も多いので、ぼんぼちさんなら
面白さが倍増するかもしれないです(^^)。

by うっかりくま (2017-03-09 22:31) 

lequiche

川端康成も三島由紀夫もほとんど読んだことがないので、
そういう師弟関係があることも知りませんでした。
こんなんではいけないと思い、
この前、三島の初期作品 「彩絵硝子」 というのを読んだのですが、
ラディゲとかプルーストの初期っぽい味わいがありますね。

私が尊敬する作家のひとりであるマルグリット・ユルスナールが
三島をとても評価していたので、ああそうなのか、やっぱり、
という気持ちもあります。
三島の戯曲といえば『近代能楽集』ですね。
とりあえずそのへんから読んでみようかなあとも思います。

サン=サーンスというのは私の感覚からするとチャラい作曲家で、
楽譜を見ると手抜きっぽく見えるところがあるんですが、
職業的作曲家 (つまり金儲け主義に見えてしまう) なのかと思うと、
でもそうでもなくて、つまり必要最小限/省エネで書いてあるんです。
それでいて、どうしてこういうふうに作れるの?
というような魅力的なテーマ。
私の理解力からすると、まだよくわからない人なんです。(^^;)
by lequiche (2017-03-10 02:20) 

うっかりくま

lequicheさんの核心を突いた的確な感想、いつも
凄いなあと思いながら楽しませてもらっています。
マルグリット・ユルスナール、とても興味深いです。
澁澤龍彦訳の「三島由紀夫あるいは空虚のヴィジョン」、
「東方綺譚」「ハドリアヌス帝の回想」・・どれから読もうかな♪
機会があったらまたブログで取り上げて下さると嬉しいです。
サン・サーンスの話も面白いですね。
私はフォーレが好きなのですが、曲のイメージ通りサン・サーンスの
過剰なお節介を礼儀正しく受け止め、大人の対応ができる優しい人
だったのだなあとか、女性にモテただろうなあ・・と音楽的話題0の
チャラい感想ばかりでスミマセン(^^;)
by うっかりくま (2017-03-10 22:34) 

うっかりくま

(コメントの追記です)サン・サーンスもフォーレも、少ない音符で
一度聴いたら忘れられない美しい旋律の曲を創り上げられていますね。
イージーリスニング的でもあるけれど、なんでしょうねー、涙が出る
位心揺さぶられる、神聖さ、高貴さも感じられるのです。
文学の方は、ちょっと危ない系?を突き進むと必ずそこに澁澤龍彦が
繋がっています。巌谷國士とかも。第二外国語に仏語でなく中国語を
選択したことが今更ながら悔やまれます(><)。
lequicheさんの三島文学のチョイス、マニアックで、さすがです(^^)


by うっかりくま (2017-03-11 10:24) 

lequiche

私の最も敬愛する須賀敦子に
「ユルスナールの靴」 という作品があって、
それ以前からユルスナールを知ってはいましたけれど、
須賀敦子が示してくれたものがヒントになった
ということはありますね。
須賀はもともと給費留学でフランスに行ったんですが、
フランス人とソリが合わなくてイタリアに鞍替えして(^^)、
それでイタリア文学を翻訳したりしていました。
エッセイなどを書くようになったのは60歳を過ぎてからで
でも69歳で亡くなってしまいました。

澁澤龍彦は 「そぉゆぅ系」 を一手に引き受けていましたからね。
パルミジャニーノを知ったのも澁澤からでしたし。
パルミジャニーノとかティコ・ブラーエとか
インチキくさくて、それがいいんです。

フォーレの最も有名な曲はレクイエムですが、
オーケストラがトゥッティ (全楽器) で鳴ることがほとんどないんです。
つまりフォーレはオーケストレーションが下手だった、
ということもよく言われるんですが、
音そのものもすごくシンプルで、
これでいいの? という感じはサン=サーンスに似てます。
でも、レクイエムの最高傑作はフォーレですね。
ですから、オケってリヒャルト・シュトラウスみたいに
ガンガン鳴らせばいいってもんでもないんだと思います。
(リヒャルト・シュトラウスはもちろんあれはあれですごいんですが)

中国語は経済学的に考えれば一番良い選択だと思います。
ただ、中国は文化大革命で中国4000年の歴史を
粛清してしまいましたからね〜。残念ながら今、文化が無いです。
by lequiche (2017-03-11 13:19) 

coco030705

こんばんは。
このころはまだ、うりくまさんとは行き来していなかったようですね。(^^♪

三島と川端の関係については、すごく興味があります。往復書簡集、ぜひ読んでみまたいです。
川端さんは三島をすごくかわいがっていたのですね。三島も川端さんを尊敬していた。川端さんのノーベル賞受賞というのが、二人の間に溝と作ったのでしょうか。
川端さんも三島も家族をとても大事にしていたようです。
川端さんは高価な宝石を奥様にいつもプレゼントしていたらしいです。(瀬戸内寂聴さんが、奥様からみせてもらったと言ってました)一方三島は、京都の老舗旅館に毎年秋、家族連れで宿泊し松茸料理を堪能していたそうです。すごいですね。
川端さんは、源氏物語の現代語訳をどこかの出版社から依頼されていたが、書けなかったらしいです。最後は書けなくなったのが、死の理由とか。憶測ですけどね。
川端さんの書斎には、書きかけの源氏物語の現代訳の原稿が散らばっていたというのを、たぶんTVで観たと思います。まぁ俗っぽい憶測に過ぎないとは思いますが。
川端さんはあまり読んだことがないのですが、また読んでみたいものです。
by coco030705 (2021-05-02 23:50) 

うりくま

>coco030705様
コメントいただきありがとうございます。
川端はノーベル文学賞を受賞してしまったために、
三島は受賞できなかったために自死に至ったと言
われたりしますが・・実際はどうなのでしょうね。
源氏物語の件は知りませんでした。書簡は図書館
にもあると思いますので、よろしかったら是非。
川端康成の作品では「掌の小説」が好きでした。
by うりくま (2021-05-03 01:54) 

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