カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」 [本・漫画・TVなど]
綾瀬はるかのＴＶドラマ、多部未華子の舞台、映画でも話題になった小説、
「わたしを離さないで」（カズオ・イシグロ著）。ご存知の方も多いと思います。
１年以上前に図書館で予約したのがやっと回ってきたので、読んでみました。
「日の名残り」もそうですが、命の終わりが近づいた主人公が、自らが
生きてきた時代や故郷同然の場所、周囲の人々との関りを懐かしみ振り返ります。
その抑制のきいた語り口と、結構シビアな人間観察が私は好きです。
主人公にやるべきことはやってきたという誇りがあるからか、暗さよりも
夕焼けのように心に沁みる、ある種の清々しさが感じられるのが特徴でしょうか。
そして作者が実際そこで暮らしていたことがあるのでは？と思う程リアルな描写。
本作のあらすじは知っていましたが、読み終えてしばらく呆然としてしまいました。
かなりショッキングな内容なので、軽々しくコメントするのは憚られる感じですが。。
- 作者: カズオ・イシグロ
「わたしを離さないで」は、臓器移植のために作られたクローンの子供達を
大人になるまで健全に保護する為の施設での生活と、やがて提供者となり
使命を終えていく友人達との交流を、一人の女性の目を通して描いています。
施設で何故絵画などの芸術活動が重視されたのか？
愛し合っている者同士は提供を猶予されるという噂は本当か？
過酷な現実を最後には静かに受け入れていく主人公達の姿に胸が詰まります。
清潔で文化的な環境で情操を育めば、オリジナルの人間同様豊かな心や感情が
備わる事を信じて大切に扱いながら、その存在自体を恐れてもいる教師達。
「同じ人間ではない」と思う事で、相手の命を奪う後ろめたさから逃れたいと
いう気持ち。人間以外の動物や、人種や身分が違う人をそのように扱ってきた
人間の歴史の先に突き付けられた、医療の進歩と表裏一体の怖ろしい未来。。
彼らに人格や人権を認めたくないし、知りたくないと思う人間の残酷さ。
どちらも限りある命なのに、その価値に優劣がつけられるのかという疑問。
（臓器提供を受けられる方を責めるつもりは毛頭ありませんが、インド等で
お金のために子供の臓器が売られていると聞くと考え込んでしまいます。。）
真実を知るのが良いことなのか、嘘であっても希望を信じ続けるのが良いのか。
時々謎を感じさせつつ進行する所がサスペンスドラマのようで、これから
どうなってしまうのか先を知りたいと思わせる作りになっています。
表紙絵のカセットテープも音を「再生」するもの。この曲が主人公に心がある事を
証明し、三角関係に度々影響を及ぼし、作品のタイトルになっているのも巧い。
「提供」というテーマにより時間や未来がない主人公たちの切実さが増していますが、
それを抜きにしても、生徒同士の力関係、特別扱いしてほしいという気持ち・承認欲求、
自己顕示欲や相手を出し抜きたいという気持ち、良かれと思ってしたことが相手を
傷つけてしまったり、意地の張り合いで取り返しのつかないことになってしまったり・・
という思春期「あるある」もたくさん詰まっています。
個人的には「提供者」になる前に必ずその「介護人」を経験するという仕組みに
感心しました。同じ境遇にある相手を思いやりながら心の準備をする・・![[もうやだ～（悲しい顔）]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/143.gif){kind=small}
失ったものが打ち上げられる海岸に、大切な人がやってくる姿を想像する主人公。
現実が甘くないからこそ、共感しあえる仲間や心を許せる相手、かけがえのない
思い出（主観的な記憶）が人を支える大事な要素になっていくのでしょうか。
様々なことを考えさせられる問題作であり、名作だと思いました。
2017-02-05 20:28
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コメント(4)
ドラマ観てました。
重いテーマでしたね。
by hatumi30331 (2017-02-05 23:42)
hatumiさん、ドラマをご覧になっていましたか。
私は水川あさみさん演じる友人がどうも苦手で
見るのをやめてしまったもので・・（＾＾；）
今ではＩＰＳ細胞や3Ｄプリンターとか？別な道が
開けてきそうな感じになってきましたネ。
by うっかりくま (2017-02-06 00:54)
子供の頃にみたら、ちょっとしたトラウマになりそうなドラマだなと思いながら観てました。
原作も少し興味はあるけど、ヘビーすぎて読むのにパワーが必要そうですね(^^;
by little_me (2017-02-06 08:17)
little_me様、コメントありがとうございます。
確かに未成年や体調の悪い人にはすすめられません。。
図書館で予約すると忘れた頃に回ってくるので、何でこれを
頼んだのだっけ？と思いだせなかったりしますが（＾＾；）
読後感はしみじみ・・という感じで悪くはないと思います。
by うっかりくま (2017-02-06 22:07)